医療従事者としての心肺蘇生技術を身につけるBLSヘルスケアプロバイダーコースと、ファーストエイドの基礎を学ぶファミリー&フレンズ・ファーストエイドforチルドレン・プログラムの二本立て。
特に、ウィルダネス・ファーストエイド(米国の野外救急法)に興味があるとリクエストをいただいていたので、今回は特別にかなり上級向けの内容まで踏み込んだコース展開となりました。
これから看護師になろうとしている人たちが、ウィルダネス・ファーストエイドに興味を持ってくれるのはとても嬉しいことです。
今日の講習でもお話させていただいた点ですが、ウィルダネス・ファーストエイドには救急医療の本質と原点が詰まっています。
医療器具がまったくない野外環境下で、どこまでの診断(アセスメント)と処置が行えるのか?
それがウィルダネス・ファーストエイドです。
ウィルダネス・ファーストエイドで学ぶことは、地球上のどこに行っても自分の身ひとつで使える根源的な技術といえます。
医療が高度になればなるほど、医療者は器械に依存します。
そしていつしか、器械・器具がなければ何もできないという状況に陥りかねません。
文明の発達は、大きな貢献がありつつも、人間の持っている能力を奪っていくという側面も併せ持っています。
いつしか人は火を扱うことを忘れ、今ではライターやマッチを使っても満足に焚き火を起こせる人は少なくなりました。
ナイフで鉛筆を削れる人はどれだけいるのでしょう?
人間が持てる最大の財産は知識と技術。
その知識と技術が文明に依存したものであったら、その文明を外れたときに、その財産は無価値なものになります。
最新のエコー装置の使い方を熟知していても、エコーの器械そのものがなければ、その知識は無意味です。
しかし聴診で体の中で起きていることを知る術を持っていれば、聴診器自体は工夫次第で作りだすことができるかもしれません。おなかや胸に耳を直接押し当てればわかることがあるかも知れない。
そんな人類として普遍的なところにウィルダネス・ファーストエイドの価値と本質があると思うのです。
ウィルダネス・ファーストエイドは、もともと野外で活動する市民のために開発された教育プログラムです。医療者のためのものではありません。高度なことは含まれませんし、限界もあります。
しかし市民向けだからこそ、高度な器具は使わず、身ひとつで緊急事態に対処する術を学び、体の5感を使って傷病者を評価する方法を学びます。
もしかしたら医療器具・器械の発達と共に医療従事者はすでに捨ててしまったかも知れない、古典的な医療のテクニックが残っているのがウィルダネス・ファーストエイドといえるのではないでしょうか。
医療の原点として、医療従事者の人にもぜひ学んでほしい内容です。
僻地医療に携わるとか、海外の途上国支援にいくといった特別なことがなくても、身ひとつでできることをきちんと見つめることは、文明社会で働く医療者としての本質的な身の立て方にも影響を与えるはず、そう思っています。
【参考】ウィルダネス・ファーストエイドを独習するなら:
The Outward Bound Wilderness First-Aid Handbook
米国系のWilderness Medical Associates (WMA) という団体が開催しているウィルダネス・ファーストエイドコースのテキストです。米国では類書は沢山ありますが、いくつか見た中でいちばんわかりやすく、かつ詳しく書いてあります。文字ばかりの本ですが、ウィルダネス・ファーストエイドの考え方と特殊性が深く学べます。
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