ご存知のとおり、日本でAEDの市民使用が解禁されたときは、AHA(アメリカ心臓協会)のハートセイバーAEDコースプログラムを模倣して日本のAED講習のあり方が規定されました。
そんな日本のAED教育のベースとなったAHA Heartsaver AEDプログラムの最新版テキスト(AHA Guideline 2010準拠)では、乳児に対するAED使用は一切触れられていません。
AHA Heartsaver Fist Aid CPR AEDコーステキストより
日本の救命講習や救急法講習では、ガイドライン2010ということで、「乳児への使用が解禁された」と浮き足立っていますが、それとは裏腹に本家のAHAでは、依然と変わらず1歳未満の乳児へのAED使用は市民には推奨されていないのです。
医療従事者向けのスタンスとしては、乳児に対しては手動式除細動器で体重1キロあたり2J(ジュール)のエネルギーでの除細動が推奨され、その準備がなければ小児用パッドとAEDを使用、それもなければ成人用パッドでのAED使用が推奨されています。
この勧告を日本では市民にも適応しているようですが、米国では市民には不採用。その理由は、ということでAHA Guideline 2010の原著を見ても、「市民に対しては乳児のAEDを教えない」という明確な記載は見当たりません。
考えるに、乳児への除細動は手動式除細動器が第一選択ということは、心電図モニターが装着されて心室細動であることが確認された場合、というのが前提条件にあると考えられます。
医療機関で心電図モニターはどこにでもあります。そのような監視下の状態で心室細動が発生した場合は、除細動は必須です。そこで手動式除細動器がない場合は、例え出力が調整できず、強すぎるAEDであっても、早期に電気ショックをしなければ助かりません。なのでAEDが推奨されているわけです。
もう一度書きます。
乳児にAED使用が推奨されているのは、あくまでも心室細動が発生した、と確認された場合だけです。心室細動発生の有無をAEDに解析するのは期待されていません。
とすると、当然、心電図モニターがない状態でのAEDのルーチン使用は想定されていない=市民には教えない、ということになります。
実際のところ、子ども、ましてや乳児が突然の心室細動を起こすことは稀です。
ご存知のように小児の心停止の原因は、呼吸のトラブルやショック(循環不良)によるものです。
死に至る過程も、徐脈を経て心停止というパターンが多く、心室細動でショックが適応という可能性は低いです。
そう考えると、AED装着を急ぐあまりにCPRがおろそかになるリスク、さらには前胸部全体がパッドに覆われることによる胸骨圧迫の効率低下を考えると、乳児にはルーチンにAEDを装着することは、害になることの方が多そうです。
このような事情から、BLS横浜では、乳児のAED使用に関しては、AHAに準拠して市民向け講習の中では、これまでどおり「教えない」方向で指導を行なっていくつもりです。
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