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2017年07月17日

「山と渓谷」誌のウィルダネス・ファーストエイド関連記事の問題点

昨日は、アウトドア雑誌Garvyに掲載された「ウィルダネス・リスクマネジメント・カンファレンス」のレポートを紹介しましたが、山岳雑誌「山と渓谷」でも同じ話題が載っていました。

山と渓谷社 ウィルダネス・ファーストエイド記事


ウィルダネス・ファーストエイドの医行為に関するシンポジウムの下りは下記のようにまとめられていました。

「山岳事故の法的課題などに詳しい弁護士の溝手康史さんは緊急事態下では『医療行為』に該当する応急処置を一般人が行っても医師法には反しないとの原則を説明した上で、『ガイドなどは職務上の注意義務があるが、本来なすべき処置を行っていれば、責任を問われることはない』として、対応を恐れないように呼びかけた。」

(山と渓谷, 2017年8月号, p.187)



1ページだけの簡単な記事で、非常に簡略化されている印象ですが、前後の文脈はなく、当該部分はこれだけです。

昨日のGarvy誌の掲載内容についての記事をご覧頂いた方は、お気づきと思いますが、主たるメッセージがまったく違います。ほぼ正反対に近い印象を受けるのではないでしょうか?

山と渓谷誌の記事:
一般人が行う医療行為は医師法には反しない → 本来なすべき処置を行えば責任は問われない → 恐れるな

Garvy誌の記事:
一般的なファーストエイドを緊急時対応として行うことは問題ない → ウィルダネス・ファーストエイド(医行為を含む)は万が一の場合は傷害罪になる → 今後の課題


山と渓谷誌の記事では、先のカンファレンスでの展開と同様、ファーストエイドと医行為の関係性が明確になっておらず、日本の既存概念の応急処置と北米のウィルダネス・ファーストエイドの違いが混沌としています。

一般人が医療行為を行ったとしても「反復継続の意志」がなければ医師法違反を問われないのはよく知られた既知の内容です。

しかし、日本の一般的な応急手当の概念では、医行為は行わない、教えないことになっており、応急手当に医行為が入るのはありえないことです。

ですから、本来なすべき処置 ではない 医行為を行っている以上、2番目の「本来なすべき処置を行えば責任は問われない」という文脈の意味が通りません。本来はなすべき立場にない人(医師免許を持たない人)が行う行為なわけですから。

短い文脈の中でも論理が破綻しており、結局何をいいたいのかわからず、そこに残るのは「恐れるな」という、根拠性のない空虚なメッセージだけです。

・医師法の問題
・刑法の問題(傷害の罪と緊急避難)
・ガイド等の注意義務

シンポジウムで話されていたこの3点が混在となって意味不明な一文になってしまっています。

なにより、医師法違反は問われないとしても、傷害の罪を問われる可能性があるという弁護士の重要な発言部分がまったく触れられていないのは、恣意的なものか、大きな問題と考えます。

字数制限ゆえの「舌っ足らずさ」なのかもしれませんが、非常に重要な部分だけに配慮と責任が感じられず、あまりに残念です。

無駄に大きい写真の意味が気になるばかりです。



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2017年07月16日

ウィルダネス・ファーストエイドの医行為は傷害罪にあたる可能性 〜Garvy誌記事より

2017年に6月16日にお台場で開催された ウィルダネス・リスク・マネジメント・カンファレンス の様子が、アウトドア雑誌Garvyに掲載されました。

Garvy 野外救急法の最前線 ウィルダネスファーストエイドの危険性


このカンファレンスに関しては、医療や法律に明るくないアウトドア専門家たちをミスリードする危険をはらんでいたことは以前にブログでも書かせていただきました。



カンファレンスには、メディア関係者も来ていたため、どのように報じられるかを懸念していましたが、Garvy誌に関しては、きちんと正しく伝えてくれていたため、一安心。

どのような内容だったのかは、ぜひ Garvy誌2017年8月号 の106〜107ページを御覧いただきたいのですが、かいつまんで要点だけを確認し、補足をしておきます。



(ウィルダネス・ファーストエイドが)「一般的に知られる救急法と異なる点は、救急車が来ないようなウィルダネスエリアで、より高度な救急処置を行うことです。例えば、一般的には救急隊員が判断し、医師が処置するような頚椎保護の診断や、脱臼の整復深い創傷の洗浄や、注射の使用などがこのウィルダネス・ファーストエイドには含まれます」

(小清水哲郎:野外救急法の最前線, Garvy 2017年8月号, p.106, 実業之日本社)


記事の中では、まずは日本の一般的なファーストエイド(救急法)とウィルダネス・ファーストエイドの違いを明確にしていました。

この点は、先のカンファレンスではまったく言及されていなかったという問題点は以前に指摘したとおりです。

パネラーとして登壇した弁護士や医師が言及する「ファーストエイド」が日本の一般通念によるファーストエイドなのか、北米の特殊なウィルダネス・ファーストエイドなのかはっきりしないまま議論が進んでいたため、オーディエンスに誤解を与える問題点となっていました。


  • 日本の一般的なファーストエイド(日赤や消防で教える内容)……医療行為は含まれない
  • 北米発祥のウィルダネス・ファーストエイド……注射や脱臼整復などの医療行為を含む


まずは、この違いをきちんと区別して考えることが重要です。

それがウィルダネス・リスク・マネジメント・カンファレンスでは抜けていました。

その点、Garvy記事はきちんと補足してくれています。


その上で、法的な視点ということで次のようにまとめています。

「一般的なファーストエイドを緊急時対応として行うことは問題ないが、『ウィルダネス・ファーストエイドの場合は、実際の個々の案件による』とのこと。事例が多くなく、また判例もないことから、現時点では万が一の場合は『医師法違反にはならないが傷害罪になる』可能性がある、という話でした」

(小清水哲郎:野外救急法の最前線, Garvy 2017年8月号, p.107, 実業之日本社)


この部分ですが、前回のBLS横浜ブログ記事で書いたとおり、フロアからの質疑応答によって初めて言及された部分でした。つまり、たまたまの質問がなければ全くスルーされていた部分です。ここをきちんと拾ってくれた記者の方には感謝です。

医師法違反が問われるのは、「反復継続の意志」を持って医行為を行った場合ですから、単発の偶発的な医療行為が医師法に抵触しないのは、AEDやエピペンの市民解禁ですでによく知られているとおりです。

しかし、医師以外が行う医行為は、その正当性を担保するものがありませんから、社会的相当性によって判断され、否となれば、人を傷つけたという傷害の罪が問われる可能性は十分にありえます。これは医師法とはまったく別の問題としてウィルダネス・ファーストエイド・プロバイダーの前に立ちはだかっているのです。

一般の方はあまり考える機会がないかもしれませんが、医療行為のほとんどは、目的や妥当性を誤れば、人を傷つける行為、傷害と紙一重です。

つい先日も、睡眠導入剤を飲み物に混ぜた(薬剤投与した)准看護師が傷害容疑で逮捕されたという事件が記憶にあたらしいところでしょう。

人に薬物を投与したり、針を刺すという行為は、基本的には傷害です。

しかし、高度に訓練を受けて免許を与えられた「医師」が医学的な妥当性をもって行うときに限り、その判断と行為が正当化されて、診断・治療という名前に変わるというのが法的なロジックです。

ここで3つのポイントがあります。

1.行った行為(処置:医行為)は正しく実施されたか?
2.行為を実施するという判断(診断)は妥当だったか?
3.実施者は、1と2を行うだけの訓練をされた人間であったか?

日本では、医学部に入学し6年間の教育を受け、医師免許を取得することで上記の1〜3が担保されるとみなされます。

つまり、傷害と医行為を区別するポイントは、一言で言えば「免許」です。

緊急避難ということで大目に見たとしても、「教育・訓練」が問題となるのは必至でしょう。

今は、判例がなく、なんとも言えませんが、今後は、この教育・訓練の妥当性が焦点となっていくはずです。

Garvy誌の記事の中で、「ウィルダネス・ファーストエイド講習に参加した医療者は、対処法に問題はないと考えています」「医師も学ぶ点が多いなど、好意的な話や」と言った一文があり、医学的な妥当性があることを示唆していますが、医学的に正しいことであっても、それをウィルダネス・ファーストエイドという国家資格とは無縁の外国の教育を受けることで、基礎知識のない一般人が、妥当な判断をできるように人材に育つのか、また技術の保証がされるのか、ということこそが問題です。

そこに関しては、カンファレンス中でも言及はされませんでしたし、記事にも書かれていません。

だからこそ、記事の結論として、「現時点での考え方は、従来からの現場課題であり、カンファレンスだけで問題解決する話ではありませんでした」としているのは妥当だと思います。

医学的正当性を検証するだけでは不十分です。教育的な妥当性も検証されなければならないのです。

「この先の良き前例の積み重ねによって、ウィルダネス・ファーストエイドへの理解と必要性を作り上げていくことの確認がなされました」

この当事者になる覚悟は重いです。

簡単にいえば、訴追される、裁判になるという覚悟です。

そうして、裁判や、社会問題として検討されていく積み重ねが、今後必要だということです。



次回は来年の6月に長野でウィルダネス・リスク・マネジメント・カンファレンスが開催される予定です。

このカンファレンス自体は、ファーストエイドに特化したものではなく、あくまでも野外リスクマネージメントという視座の中のひとつとして、今回たまたまファーストエイドが選ばれただけです。ですから、次回のテーマは、遭難かもしれませんし、落雷かもしれません。

しかし、今回、懸案だったウィルダネス・ファーストエイドの現状確認の第一歩が行われたわけですから、この先のウィルダネス・ファーストエイドの日本国内定着に向けての議論は、今後も続けていってほしい永代のテーマだと思っています。

WRM関係者ならびにすべてのWFA講習提供者の方たちには、この点、切にお願いしたいと思います。









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2017年06月21日

ウィルダネス・ファーストエイドの法的問題考

2017年6月16日(金)に開催された 第1回ウィルダネス・リスクマネジメント・カンファレンス に参加してきました。

初回開催の今年のテーマは「日本における野外救急法の現状と課題」

主に北米で発展してきた Wilderness First Aid 講習プロバイダー(提供事業者)が日本にもいくつか入ってきていますが、野外救急法が一般の救急法と違うのは、救急車が来てくれる環境ではないという点。

そのため、通常だったらプロの救急隊員や医師に委ねるべき判断や医療処置(脱臼整復、アドレナリン注射、ジフェンヒドラミン投与、創洗浄、頚椎保護解除診断など)までも含むのがウィルダネス・ファーストエイドの特徴です。

そのため、北米の講習プログラムをそのまま日本国内で展開したときの危険性や法律に抵触する可能性がしばしば問題となってきました。

今回は、複数のウィルダネス・ファーストエイド講習展開事業者が集い、実現したカンファレンス。

野外教育の専門家、弁護士、医師による野外救急法をテーマにしたシンポジウムで、ウィルダネス・ファーストエイドの日本での法的な位置づけがはっきりすることを期待しての参加でした。


●新しいことはなかった

さて、参加させてもらっての感想ですが、「なにも新たな知見はなかった」、というのが結論です。


  • ファーストエイドは医師法に抵触しない

  • しかし、ウィルダネス・ファーストエイドに含まれる医療行為の実施は傷害罪を問われる可能性がある

  • アウトドアガイドなど業務で処置する人は、一般人に比べて結果責任を問われる可能性が高い




従前から知られていたとおりのことが再確認されただけでした。

当初、弁護士の話として、ファーストエイドの実施は医師法違反にならない、という点が強調されており、ウィルダネス・ファーストエイドの実施にはなんら法的問題はないという論調が形成されました。

しかし、その後の質疑応答の中で、「ウィルダネス・ファーストエイドに含まれる、本来は医師しか行えない医療行為を無免許者が行えば傷害罪になるのではないか?」というフロアからの意見に対しては、個別のケースは事後に検証しなければわからないが、傷害罪をとなる可能性はあるというのが弁護士からの回答でした。

つまり、医師法違反にはならないが、刑法(傷害罪)に抵触することは否定できないという結論です。


●医師法違反にならないが傷害罪にはなりうる

この部分のシンポジウムの進め方には、少し危険な部分を感じました。

医師法違反にはならないが傷害罪になる。

それを持って、大丈夫、法的に問題ないという論旨展開していたことになります。

質疑応答で刑法のことが質問されなければ、これで終わっていたと考えると恐ろしさを感じます。

そもそも、弁護士が真っ先に言及した「ファーストエイドは医師違反にならない」という言葉の中の「ファーストエイド」の中身が定義されていなかったのも問題でしょう。

これを日本赤十字社や総務省消防庁がいうところの救急法とするのであれば、なんの違和感も感じない文脈です。

しかし、今回は、町中であれば、医師以外がやってはいけないと認識されている行為を含めた「普通ではない」ファーストエイドを論じているのです。

この前提を整えずに、法的に問題ないと結論付けるのは、大きなミスリードを生む危険をはらんでいると感じました。


医師法が規制しているのは「反復継続の意思」を持って医行為を行うことであって、簡単にいうと偶発的な単回の医療行為は医師法違反となりません。これは事実です。

だからと言って、例えば素人がナイフを使って気管切開をしていい、という話にはなりません。

他人の体に刃物を突き立てれれば傷害です。

いくら緊急事態で刑法37条の緊急避難が適応されるとしても、一般的には無謀な行為とみなされるでしょう。そのような判例がないから、ダメとは言えないという意見もありますが、だからといって素人が人の首にナイフを突き立てることをよしとする通念は日本にはありません。

緊急避難にあたるかどうかは社会的相当性で判断されると弁護士は言っていました。

日本社会におけるファーストエイドには医行為は含みません。これが日本の社会通念。

そんな中で、米国の民間団体が行う数日間の講習を受けて取得した民間資格で、素人が医療行為を行う妥当性があると判断されるものなのか?

今回のシンポジウムでも、明らかになりませんでした。



今回のシンポジウムには、アウトドア事業者、医療者、野外教育者など、90名近い方が参加していたと聞いています。

この話を聞いた人たちがどのような理解を持って帰ったのか?

それが気になるところです。

今回のカンファレンスの内容はアウトドア雑誌で2ページに渡って紹介されることが決まっているそうです。

「ウィルダネス・ファーストエイドは日本の法律的にまったく問題ないことが確認された」というようなミスリードされた理解に基づいた記事が発信されないことを願っています。




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2014年06月14日

野外救急法ウィルダネス・ファーストエイドの指導ガイドライン

野外救急法、ウィルダネス・ファーストエイド。

ウィルダネスファーストエイド講習風景:頚椎保護と全身の触診(DOTS)


日本でも知る人ぞ知る存在になってきましたが、その中身はというと、受講しないかぎりはなかなか全体像を知る機会はないかもしれません。

アドバンスドな本格的なファーストエイドを学ぼうと思ったら、ウィルダネス・ファーストエイド、と言われるくらいにまでなっていますが、意外と門戸は広がっていないようです。

そんな、ウィルダネス・ファーストエイドを学びたい! という方に朗報。

ウィルダネス・ファーストエイドのインストラクターマニュアル相当のドキュメントが、インターネット上にアップされているのを見つけました。

Wilderness First Aid Curriculum and Doctrine Guidelines (PDF直リンク)
(Boy Scouts of America, 2009)


米国ボーイスカウトが出しているウィルダネス・ファーストエイド・カリキュラム&基本指針ガイドラインです。

執筆者の中には、私達にウィルダネス・ファーストエイド・インストラクターコースを開催してくれた米国赤十字のJeffreyも名前を連ねています。

内容的には、インストラクターコース受講者しか手に入らないアメリカ赤十字のWilderness & Remote First Aidのインストラクターマニュアルのエッセンスがほぼ詰まっています。

アメリカ赤十字のウィルダネス&リモート・ファーストエイド・インストラクターマニュアル


野外救急法が普通のファーストエイドとどう違うのか、傷病者アセスメントをどう教えたらいいのか、怪我や疾病はどんな項目を取り上げたらいいのかなど、興味がある人には垂涎の情報なんじゃないかと思います。

興味がある方はぜひ読んでみてください。





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2014年01月11日

ウィルダネス・ファーストエイド in 横浜

先日開催したウィルダネス・ファーストエイド講習のレポートです。

前回は10月に沖縄の石垣島で、その前は鎌倉。

「BLS横浜」といいながら、横浜で野外で開催するウィルダネス・ファーストエイドは初めてでした。

その気になって探すと、横浜市内でも講習に適した野山はたくさんあるんだなと感じました。

ウィルダネス・ファーストエイド/BLS横浜



さて、今回のウィルダネス・ファーストエイド講習は、初めて全員が医療従事者でした。考えてみれば、これまで医療従事者が受講者として参加したことはない!? かもしれません。

しかも揃いも揃って、全員AHAインストラクターで、BLSだけじゃなくて、ACLSインストラクターやPALSインストラクターも!

全員PALSも修了しているということで、人が死ぬ仕組みの理解やアセスメントの部分はとばして、早々にシミュレーションに突入。1日での展開としてはだいぶ奥まで進めました。

医学的な素養があるので、医療現場での知識と経験が、アウトドア環境下という毛色の違う土壌での体験といかに結びつくかがキーポイント。そこが繋がると速かったです。

BLSひとつをとっても、都市部とウィルダネス環境下では、相当違います。

まず第一に、BLS講習で前提となっている「硬く平らな場所に仰向けで寝かせて」という状態に持っていくのに一苦労。でこぼこだったり、斜面だったり、うつ伏せで背中のザックが邪魔ではずせなかったり。

そんな状況では、胸骨圧迫のやり方だけを覚えていても、太刀打ちできません。

胸骨圧迫の意味と、その作用機序、目的を理解して、形にとらわれず、与えられた状況でできうる最大限に効果が期待できる方法をその場で考える応用力が必要なのです。

うつ伏せでバックパック、呼吸確認どうする? ウィルダネス・ファーストエイド横浜


呼吸確認も同じです。

今回もいろいろ試してもらいました。

冬場だから当然厚着で着込んでいます。さらにはうつ伏せだったり、背中に大きなザックを背負っていたり。

あとはシミュレーションで、暗いトンネルの中で倒れているというケースをやってみました。

胸・腹の動きを目視するだけ、に変更されたG2010の呼吸確認は暗がりでどれだけ有効なのか?


日頃、室内講習ではなかなかできない模擬血液を使った血だらけのシミュレーションや、実際に服を切って創部を観察する体験など、野外環境ということをフルに使って、日頃のPALSなどとは違った体を張ったシミュレーションを体験してもらいました。

そうして受講者さんに頂いた感想は、「BLS、ACLS、PALSの後の総まとめとしてファーストエイドのシミュレーションが効果的!」とのこと。

AHA講習としてはある意味最高峰とも言えるPALSの先に、こうしたウィルダネス・ファーストエイドがあると言っていただけたのはうれしかったです。正直、ガッカリして帰られるのでは、と心配していた部分もありましたので。


今回、なかなかいい場所も見つけられましたので、春先くらい地面を這う虫が出てくる前にくらいにもう一回、ウィルダネス・ファーストエイド講習ができたらなと思っています。





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2013年11月30日

僻地で求められる救急対応スキル ファースト・レスポンダー育成

今年の10月末に沖縄の離島でファーストエイド講習を開催させていただいたのですが、そこで感じたのは、島で求められているファーストエイドスキルは、都市部のそれとはまったく異なるという点でした。

西表島と小浜島の方から話を聞かせていただきましたが、両島には消防所轄の救急車はありません。救急隊もいません。

つまり119番通報しても、救急車は来てくれないのです。

119番通報をすると、行政機関の集中している石垣島につながり、必要ならそこから離島の診療所の医師に連絡がいくという体制。(実際のところ島民は119番は使わず、直接消防団長の携帯にかけるのが通例だそうです)

例えば、交通事故があった場合に、車から救出して診療所に運ぶのは誰かと言ったら、地元の消防団(消防職員ではなく)もしくは近所の住民。場合によっては医師が現場に来ることもあるといいますが、医師は一人しかいませんので、基本的には、地元の人の軽トラックや車で診療所に運び込むということになっているそうです。

日頃、横浜でファーストエイド講習を開催するときは、119番通報すれば10分程度で救急車が到着するというのが前提となっています。ですから、緊急通報を迅速に、かつ的確に行うことが最大の「ファーストエイド処置」となるわけですが、離島の住民にとっては違うのです。

そう考えると、離島の住民にとって標準的に必要なファースエイドは、救急車が車での10分間を前提としたものでは不十分かもしれない、そんな考えに至ります。

そこで出てくるのが、ある程度のことは自分たちで判断して、対処しようというAdvanced First Aidの考え方です。

ファーストエイド講習プログラムは、北米ではBasic講習とAdvanced講習に大別されています。例えばAHAのハートセイバー・ファーストエイド講習はBasic、WMAやARCなどの「ウィルダネス・ファーストエイド」は総じてAdvancedに区分されます。

日本ではAdvanced First Aidという概念がありません。近年、野外活動家を中心に広がりを見せているウィルダネス・ファーストエイドの導入によってようやく認知されてきたところです。

救急隊員という専門家に頼れない状況下で、どうするのか?

日本の救急法の概念では、心肺蘇生法を除けば「素人は余計なことはするな、救急隊員や医療者に任せろ!」で救急法教育が進められてきましたが、野外活動家だけではなく、今回のケースのように離島の住民にとっては、それでは八方ふさがりとなってしまう場合が現実にあるのです。

似たことは離島にかぎらず、内地でも山村など、医療僻地は多数存在します。

陸路で救急車が来れるとしても、到着までは1時間以上掛かるという場所も珍しくはありません。

そんな場所で救急対応を行わなければいけない第一発見者や地元の人たち。

そこで、近年、消防庁と厚生労働省で検討会が開かれ、救急車が到着するまでの間をつなぐために、ファースト・レスポンダー隊員を育成しようという動きが出てきています。

例えば、石川県の加賀市消防本部では、平生24年11月に「塩屋町ファーストレスポンダー隊」が発足させたというプレスリリースがありました。

このように正規の行政サービスとしての救急対応システムでは行き届かない、隙間を埋める発想が広がりつつあります。

問題となるのは、そのファースト・レスポンダーにどんな教育を行うのか、という点です。

「塩屋町ファーストレスポンダー隊」を例に取ると、「ファーストレスポンダーとは初期対応者という意味で、心肺停止状態等の命の危険がある方に対して救急車が到着するまで救命活動を行うことで、自分の住んでいる地域の方の「助かるべき尊い命」を救うことを目的としています。」とあり、主に心肺停止者対応を想定している模様です。(http://www.city.kaga.ishikawa.jp/article/ar_detail.php?ev_init=1&arm_id=101-0477-4994

人の命にとって最悪の事態である心肺停止に対応できること、これは基本中の基本です。

しかし、もともと北米で発達した概念であるFirst Responderとは明らかに異なります。北米的には心肺蘇生法しかできない人はBLSプロバイダーもしくはCPRプロバイダーと呼ばれます。

ファーストレスポンダーは、CPRプロバイダーであり、かつ非心停止対応もできるファーストエイド・プロバイダーであり、そのさらに上位概念としてのステイタスです。

ファースト・レスポンダーに求められる救命スキルは地域によって異なるかもしれませんが、日本の行政単位で広がりつつあるファースト・レスポンダーの概念は、つまるところ「制度化されたCPRプロバイダー」ということになりそうです。今後、必要に応じて発展していくのかもしれませんが、正直なところ少し違和感を覚える部分もあります。

BLS横浜では、今回、西表島や小浜島の方たちにファーストエイド講習を開催させていただく中で、ウィルダネス・ファーストエイドに準じる本来の北米型のファースト・レスポンダー育成の必要性を認識しました。

これまではウィルダネス・ファーストエイドということで野外活動を前提としましたが、僻地の山村で、場合によっては診療所に医師と看護師はいるかもしれないという状況下で必要なファーストエイドの知識と技術は何なのか?


そこを突き詰めていき、北米型のファースト・レスポンダー育成事業の試みを始められればと考えています。





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2013年11月23日

ウィルダネス・ファーストエイド

日本で開催されている一般的な救命講習は、職業人のためものではない!

それは日頃からBLS横浜が訴えているところですが、市民向け一般救命講習でお茶を濁してはいけない最たる存在、それが山岳ガイドやアウトドア・ガイドの人たちです。

ウィルダネス・ファーストエイド(野外救急法)


日本の一般的な救命講習は、救急車が来る場所での心原性心停止に特化した、極めて限定的な内容しか扱っていません。しかも、それが心肺蘇生法のすべてであるかのような空気感をもって伝わっているところが、アウトドア系の職業人には悩ましいところです。

救急車が入れない、また病院搬送まで数時間もかかるような場所で活動する人たちが、マジメに人の命を考えたときに、一般的な救命講習では納得し得ないクエスチョンマークが沢山でてきます。

・山にはAEDがない。どうするの?
・反応がなければすぐ救急通報をしろ? 携帯が通じなければ近くの山小屋まで傷病者を置いて走るべきなの?
・登山道の斜面に倒れている! そのまま胸を押していいの?
・日が暮れてきた。いつまで蘇生を続けたらいいの?

このように、いわゆる心肺蘇生法の技術を身につけても、人里離れた野外環境下では使えない、というか困ってしまう場面がたくさんあります。

そこで、野外環境下では野外環境下にフォーカスした救命講習、というのがあるのです。

それがウィルダネス・ファーストエイド Wilderness First Aidです。

Wildernessという単語は、未開の大自然、荒野、広大な原始林といった意味があります。

医療資源の恩恵に預かるのが難しい環境、目安はいろいろ言われていますが、救急隊員や医療機関に引き継ぐまで数時間以上かかるような環境をウィルダネス環境下と呼ぶことが多いようです。

通常の心肺蘇生法やファーストエイド(応急手当)講習は、119番通報して、救急隊員に引き継ぐまでの10分前後の時間をどうするか? を学ぶ内容です。

ですから、心停止だと認識したら119番通報して無我夢中で胸を押していれば、すぐに救急車が来て、あとはどうにかしてくれます。

しかし、ウィルダネス(僻地・野外環境下)ではそうは行きません。

専門家の判断に委ねる前に、自分で判断しなければならないことが多い、それがウィルダネス・ファーストエイドの特徴です。普段だったら救急隊員に任せるべき部分も自分たちでどうにかしなくてはいけないのです。

そこで通常の救命講習やファーストエイド講習では、ブラックボックスになっている「理由・理屈」の理解が求められると言えます。通常の応急処置講習では難しいからという理由で教えない傷病者評価(簡単にいえば救急隊員の観察・評価の方法)を体得する必要があったり、心肺蘇生についても、その理屈と意味がわかっていないと、危険が多い野外環境下で正しい判断・行動ができません。

例えばAED。その作用原理がわかっていれば、なんとしてもAEDを手に入れたいようなシチュエーションと、AEDを手配するより、心肺蘇生法、特に人工呼吸をがんばるべき状況というのが、なんとなく判断できる場合があります。

胸骨圧迫と人工呼吸だけで助けられるケースと、AEDがなければ助からないケースがあるのです。

また、いつまでCPRを続けるのか?

街中なら、単純に救急車が来るまで、と言い切れますが、人的資源が乏しく、環境要因(寒さや暑さ、地形まど)によって救助者の安全が脅かされるような状況下で活動する人に、救助が来るまで続けろというのは酷な話です。そこで、救助者自身の身の危険が迫った場合もやめていいという部分が重要になってくるのですが、その具体的な例を一般救命講習では、自身や建物倒壊といった極端な例でしか示してくれません。

夏の北アルプスの稜線上で起きた心停止事案。時刻は14時。雨が降っていて最寄りの山小屋までは2時間。さあ、どうする?

そのような場所では、心肺蘇生法の位置づけも内容も違ってきて当然です。

一般的な救急法講習では「想定外」なそんなシチュエーションを想定した野外救命法。

そんな北米で発展した概念を、BLS横浜では積極的に紹介していきます。
先日、沖縄県の石垣島で開催したウィルダネス・ファーストエイド講習の様子を、次回書きたいと思います。





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2013年01月07日

ウィルダネス・ファーストエイド&CPR合宿

この週末は、山梨のお寺をお借りして、ウィルダネス・ファーストエイド(野外救急法)&心肺蘇生法のトレーニング合宿でした。

山梨県忍野村の慧光寺にて野外救急法&心肺蘇生法トレーニング


日本で最もハイレベルなファーストエイドを学べるのがウィルダネス分野。日本でもいくつかの北米系の団体が2日〜8日くらいかけての本格的な講習を展開しています。

そんな本格的なファーストエイドを学んだ人たちを対象とした野外環境での実践トレーニング&補完講習が2013年のはじまりでした。


ウィルダネス・ファーストエイドの特徴はなんといっても、実際の屋外環境で行うシミュレーションが中心であるという点。

これはふつうの心肺蘇生法講習でも言えることですが、講習会場内での練習と、実際の現場の行動は呆れるくらいに違います。講習会場ではできたのに、現場ではうまくいかなかった、という話に暇はありません。

特に野外、斜面もあれば倒木などの障害物もあるような山の中で救護活動をするためには、その場に合わせた臨機応変な応用力が欠かせません。それは講習会場の中では培えません。だから実際の現場で想定訓練を行う必要があるのです。

ウィルダネス・ファーストエイド訓練  野外救急法訓練


今回集まった人たちは6名。

みんなウィルダネス系のファーストエイド講習を正規修了していますが、その時期や内容(レベル)はバラバラ。

自己紹介後、さっそく会場となったお寺の裏の森へ。二人一組で、傷病者役と救助者役に分かれてもらって軽いシミュレーションを開始。

最初のケースは、食事を取らずに強行軍で登山をしていた人が低血糖でぐったりしているという症例。もちろんそんな情報を救助者は知らないわけですから、傷病者の様子を観察して、話を聞きながら問題を探っていくわけです。

さすがみんな国内最高レベルのファーストエイドを学んでいるだけあって、サクサクと情報を取っていきます。傷病者の話の聞き方にもポイントがあります。そんなセオリーを知っているだけに話はスムーズ。つまり、ウィルダネス・ファーストエイドを学んでいる人は「傷病者アセスメント」ができるという点はとても大きいです。

この前提があるからこその今回の企画でした。

傷病者役と救助者役を交代して軽いシミュレーションを繰り返して計4本。
復習を兼ねた軽いジャブからスタートしました。



午後からはCPR練習。

実はウィルダネス環境下と呼ばれる救急隊などの応援が到着するまでに何時間もかかる場所で心停止になったらある意味おしまいです。AEDを携行していれば助かるケースもあるかもしれませんが、医療機関への引継ぎが出来ない限り、予後は芳しくありません。

そういった意味で野外救急法講習でのCPRのウェイトは驚くほど低いです。むしろ、CPRを開始しない条件や辞める条件について強調されるほど。

ですが、せっかく最高レベルのファーストエイド・プロバイダーの皆さんには、街なかでもぜひ活躍してほしいということで、この機会にCPR練習もみっちり。アウトドアに関していえば外傷が多いわけですから、今はまったくと言っていいほど教えられなくなった頚椎保護を意識した下顎挙上による口対マスク、口対口人工呼吸も練習してもらいました。

あとは、オリジナル講習プログラムであるAdvanced CPR講習の要素を取り入れて、街なかでありがちなCPR現場に集まる第三者への対応方法、またCPR講習受講経験がない人を蘇生に巻き込んで、その場で即興の指導を行う方法などをシミュレーションの中で考えてもらいました。



2日目は、傷病者一人を残りのみんなで助けるというやや複雑なシミュレーションへ。

手作りブランコから落ちての頭部外傷による意識障害+腹部強打による腹腔内出血(ショック)、首吊り企図による低酸素心停止の一歩手前状態、斜面での転倒で足関節骨折と手首の切創、キノコによるアナフィラキシー。

ウィルダネス・ファーストエイド。足関節の固定  アウトドアで役立つ野外救急法実践訓練


なにが問題か? その優先順位は?

処置をするまえにはアセスメントが必要です。足が変形しているからといって、条件反射的に固定をするのは間違い。他にもっと重篤な問題が隠れているかもしれないからです。

特に、山の中では不安定な状態で倒れている事がよくあります。斜面に頭を下向き、しかもうつ伏せで倒れていて、背中には大きなザックを背負っている、といったような。

楽な姿勢ではありませんし、危険。全身観察も出来ませんから。どうにか移動するべきですが、受傷機転を聞いて、脊椎損傷の可能性を考慮した上で、動かすか動かさないか、また、動かすならどう動かすかを決めなければなりません。

それは、その時の気温や天候、日没までの時間、安全な場所までの距離、その場にいる救助者の人数、装備品、倒れている場所の様子などによって、一定しません。

つまり原則を理解した上で、その応用はその都度考えるしかないのです。

これが野外環境下でなるべくリアルにシミュレーションすることの意義です。

つまり、ファーストエイドの実践には、こうした想定訓練とその反復が必須。そしてその実践練習の前段階として、ファーストエイドの原理・原則を理解する基礎講習が必要。

これが使える救急法を身につけるためのセオリーなんじゃないかと思います。

実は今回のイベントは、企画講習というよりは、ウィルダネス・ファーストエイドを着実に身に着けたいと考える人たちの自主訓練・自主トレーニングでした。

公認講習等で原理原則を学べば、あとは応用あるのみ。自分たちの手でスキルアップをしていけるのです。そんな学びの良い流れが屋外救急法分野では確立しつつあります。

このことが、野外救急法にかぎらず、使える救急法を身に着けたいと考えるすべての人のヒントになると幸いです。





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2011年07月19日

ウィルダネス・ファーストエイド講習 in 鎌倉

この連休中、鎌倉の山に出向いて、ウィルダネス・ファーストエイド(野外救急法)の講習会を展開してきました。

ウィルダネスファーストエイド講習風景:頚椎保護と全身の触診(DOTS)


日本でもあちこちで開催されている普通の救急法は、都市生活を想定したもの。

それを救急車やおいそれとは入れないアウトドア・フィールドで適応するには無理があります。

そこで野外向けには野外に特化した救急法を、ということでアメリカで開発されたのが Wilderness First Aid です。

私たちがインストラクター教育を受けたアメリカ赤十字(ARC)の Wilderness & Remote First Aidコースは、本来は1泊2日。テントや食料を背負って、実際の山道を歩きながら、キャンプをしながら講習が展開されます。

今回は、そのダイジェスト版ということで1日、鎌倉のフィールドで汗と落ち葉にまみれ、そして虫さんたちと戯れてきました。

ウィルダネスファーストエイド講習風景:救助シミュレーション・トレーニング


シミュレーション・ベースで展開されるウィルダネス・ファーストエイドは実践的。講義めいたことはあまりせず、まず、動いてもらいます。

受講者の人たちが日頃持っているファーストエイドキットを持ってきてもらって、日頃持っている知識を総動員して救助に当たります。仲間で相談し考えながらの救助訓練。必要時、インストラクターがアドバイスをし、必要なとき必要な情報を提供。

こうして、本を読むだけではなかなか身につかない知識をしっかり頭と体に焼き付けます。


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ウィルダネス・ファーストエイドの特徴は、どんなケガか、なんの病気かがわからないところからのアプローチを体系的に学ぶところにあります。

つまり倒れている人、具合の悪そうな人を見たときに、何を観察して、何を尋ねるか、そしてどう対応していくか? ケアの優先順位は? どの程度の緊急度? そういったことを判断し行動できるようにトレーニングしていきます。

これが日本の救急法とアメリカのウィルダネス・ファーストエイドが一線を画する決定的なポイントです。

医療従事者向け講習ですと、小児のPALS、外傷のJPTEC、内科系疾患のAMLSなどで学ぶ評価・アセスメントが盛り込まれている、のです。

しかも、その範囲は外傷も内科系疾患も含んでいますから、もしかするとウィルダネス・ファーストエイドが一番幅広い傷病者に対応できるアプローチを学べるかもしれません。


今回の6名の受講者さんたちは、慣れないシミュレーションで最初は戸惑いは隠せませんでした。しかし、最後は山岳救助隊かと惑うばかりのテキパキした動き、自信をもった傷病者対応ができるようになりました。

CPRと違って、ファーストエイドには確かな答え、方法の正解はありません。

だからこそ、敷居が高く難しいのですが、まずは傷病者評価の手順を身につけ、さらに知識を増やし、引き出しを増やしていけばいくほど、判断材料が増え、より自信を持った対応ができるようになります。

そんな入り口として、たった1日ではありましたが、大きな実りがあったのではないでしょうか?

日本ではまだまだ限られた場所でしか開催されていない実戦的な野外救急法を、横浜・湘南から発信していきたいと思います。





posted by BLS横浜 at 20:57 | ウィルダネス・ファーストエイド | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年06月05日

応急処置と医療行為と法律

先日、北米で発達した野外救急法講習ウィルダネス・ファーストエイドの危険性について取り上げました。

病院搬送するのに何日もかかるようなウィルダネス環境下(たとえば山奥など)では通常の救急法ではカバーできない部分があり、ウィルダネス・ファーストエイド講習では、医療行為に含まれる高度な処置をも教える場合があります。

脱臼の整復や内服薬の投与、さらには注射まで含むことがあり、これはら医師以外は行えない医療行為です。

アメリカでは医療機関に搬送困難なウィルダネス環境下では、医師免許を持たない人でも、そういった高度なファーストエイド処置が提供できるようですが、当然日本国内では認められていません。

命にかかわる事態であれば、法律違反を覚悟の上で実施するという判断も、自己責任が常識の登山の世界ではありかもしれませんが、その行為の重さがウィルダネス・ファーストエイド受講者になかなか伝わっていないというのが問題となっています。

それに関連して、救急法と法律に関して考える上でよい事例がありましたので、ご紹介したいと思います。



『休日に業務外で救命行為をした消防指令を処分、退職』
2011年6月2日/朝日新聞


茨城県石岡市消防本部は5月31日、休日に自分の業務ではない救急救命行為をしたとして、救急救命士で石岡消防署の男性消防司令(54)を停職6カ月の懲戒処分にした。消防司令は即日、辞表を提出し受理された。このほか、監督責任を問い、消防長ら上司5人を訓告処分にした。

同消防本部によると、消防司令は4月14日午後0時半ごろ、静岡県内の東名高速道路で自家用車を運転中、追突事故に遭遇。医師の指示を受けないまま、不当に所持していた同消防本部の医薬品を使い、けがをした運転手に静脈路を確保するための救命処置を行ったという。

本人からの申し出や、静岡の消防本部からの報告で発覚した。消防司令は「法律(救急救命士法)に触れることはわかっていたが、助けたい一心でやってしまった。(石岡市消防本部の医薬品は)東日本大震災の後、もしもの時のために持っていた」と話したという。(http://www.asahi.com/health/news/TKY201106020255.html





最近、報道されたこの事例は、交通事故、「胸が痛い」と訴えているハンドルで胸を打った可能性がある男性に対して、たまたま通りかかった非番の救急救命士が注射針をさして点滴(静脈路確保)をしたというもの。(参考:http://www.j-cast.com/2011/06/01097286.html

この行為には様々な問題がはらんでいますが、いま問題にしたい最大のポイントは、「救急救命士が生きた人間に針を刺すことは法律で許されていない」という点です。

救急救命士は静脈路確保のために注射針を刺すことはできますが、それは心臓が止まった人間に対してのみ。今回のケースでは「胸が痛い」というだけで心停止ではありませんでしたので、この時点で違法行為です。

当該救命士が当時非番であったり、無断で職場の点滴器具を持ち出していたなどの問題もありますが、それらは抜きにして、そもそも救急救命士には許されていない医療処置を行ってしまったのです。

その結果、地方公務員法違反(信用失墜行為)ということで停職6ヶ月の処分となりました。しかし、他にも、医師法違反、救急救命士法違反で免許剥奪、また傷害罪などにも問われる可能性が考えられますので、処分としては軽いものであったと言えるかもしれません。

このことから言えるのは救急救命士という救命のプロが必要と判断して行ったことであっても、法律で許された範囲外の行為は違法であり、処分が下されるという事実。

命を救うためといっても違法は違法。それが法治国家における法律というものです。

ウィルダネス・ファーストエイドでは、命を救うためにはやむを得ない場合のみ行うという位置づけで一部の医療行為を学びますが、それを実践で使うときには法律を犯すという自覚、また社会的地位を失うということを考える必要があります。

いくらアメリカ合衆国で公認されているライセンスを取得しても日本ではなんの免罪符にもなりません。

とはいえ、野外環境下での特殊な救急法を学ぶことは否定はしているわけではありません。

大自然と対峙したとき法律などは人間が作ったちっぽけなもので、命の重さに比べれば取るに足らないものといえる瞬間があるかもしれません。

しかしそれは最終手段、奥の手であり、日常生活で使うものでは決してないわけです。


問題の救急救命士が、なぜ結果的には必要もなかった静脈路確保をしてしまったのかというと、真実はわかりませんが、少なくとも職場から無断で持ち出した「輸液セット」が手元にあったから、というのは事実だと思います。

持っているから使いたくなる。

それは人間の心理として想像に難くありません。

ウィルダネス・ファーストエイドの知識と技術に関しても同じことが言えます。

知っているからやってみたくなる。そんな衝動はきっと受講者誰もの心の中に潜んでいるに違いありません。

だからこそ、ウィルダネス・ファーストエイドの中に含まれる医療行為についてはセンシティブになって慎重に扱い、教える側も細心の注意をもって指導していく必要があります。

またアメリカの講習プログラムではありますが、開催するのが日本国内で主に日本で使うことを想定している受講者が大半であるなら、日本の法律と日本の周辺事情を加味して、自己責任として正しく判断できるだけの情報提供がなければなりません。

そうしてアメリカではなく日本国内としての倫理観を身につける付加教育がなければ、諸刃の剣としてウィルダネス・ファーストエイドは危険なものと成り下がってしまいます。

ある人は、日本で開催されているウィルダネス・ファーストエイド講習を「大人のお医者さんゴッコ」と表現しました。受講者に勘違いが生じてしまっている現状を考えると、そのとおりだと思います。「大人のお医者さんゴッコ」が社会問題とならないためにも、受講者は高い倫理観を持っている必要があります。

人里はなれた野外環境で活動する人間にとっては、必要不可欠とも思える有用な技術・知識ですから、分別をわきまえた大人が分別を持って学び、健全に日本に根付いてくれることを願っています。




posted by BLS横浜 at 23:53 | ウィルダネス・ファーストエイド | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年05月02日

ウィルダネス・ファーストエイドの危険性

BLS−AED.net横浜では、ウィルダネス・ファーストエイド Wilderness First Aid と呼ばれる野外救急法の推進活動も行っています。

これはアメリカ・カナダで発達した人里はなれた野外(ウィルダネス)を想定した特殊な救急法。

医療資格を持たない一般市民向けですが、病院にいくまでに何日もかかるような場所では、通常では医療者任せにするやや高度な判断や処置をしなければならないこともあります。

通常の救急法の範疇を越えて、救急隊未満くらいな感じでしょうか。

私たちの主要スタッフはアメリカ赤十字(American Red Cross)のウィルダネス&リモート・ファーストエイド Wilderness & Remote First Aid インストラクター資格を持っています。

日本では数少ないARC公認インストラクターとして、ウィルダネス&リモート・ファーストエイドを日本で広めるのは私たちの使命と考えていますが、諸事情によりアメリカ赤十字の公認ライセンスを発行する講習会の開催は控えています。


というのは、法律や前提条件の違うアメリカ合衆国の講習プログラムを日本にそのまま持ってきていいのか、という疑問があるからです。

一言で言うと、「日本でやったら医師法違反で逮捕される」ような処置も含まれている点が問題。

日本の救急法では、消毒も含めて薬を使うのはご法度です。

しかし、ウィルダネス・ファーストエイドでは、プロトコルにしたがって内服薬や、さらには注射薬を投与する場面がいくつかあります。

また、スパイン・テストといって、脊椎損傷の疑いがあるときの頭部保持を解除するための神経学的評価の項目もあります。これは日本の医療従事者や救急隊からしたら信じられないようなシロモノで、救急救命士であってもそんなことは絶対にやらないというくらいの危険なものです。

救助がこない野外環境下では必要な場合があるという点は異論はないのですが、その意義と危険性(傷病者への危害と救助者の法律的な訴追の両方)の情報を正しく提供し、本当にそれを行うべきか、責任を負う覚悟ができているか、そんな判断ができるようになるまで援助をできる体制が、私たちにはまだ整っていません。

それゆえに、こうした日本では違法性が疑われる行為を教えることは控えている状況です。

そのため、現在は、オリジナル勉強会という形で、ウィルダネス・ファーストエイドのエッセンス、また傷病者評価(アセスメント)システムに関して講習展開をするにとどめています。

幸い、私たちは医師・看護師・救急救命士といった医療のエキスパートを含めて構成されています。医療監修がきちんと行える体制はあります。足りないのは法律的な解釈と説明。そこをフォローできる体制をつくり、日本で教えられる範囲と避ける範囲を明確にし、日本の風土・法的環境に適した野外救急法を確立することを目指しています。





posted by BLS横浜 at 11:08 | ウィルダネス・ファーストエイド | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする