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2017年10月06日

「パニックで人工呼吸できず」で送検|指導側の対策は?

読売新聞2017年10月6日付でこんなニュースがありました。

無痛分娩死で院長「パニックで人工呼吸できず」 読売新聞


無痛分娩死で院長「パニックで人工呼吸できず」

 大阪府和泉市の産婦人科医院「老木(おいき)レディスクリニック」で1月、麻酔で出産の痛みを和らげる無痛分娩(ぶんべん)をした女性が死亡した事故で、担当した男性院長(59)が府警の調べに、「人工呼吸をしようとしたが、パニックになりできなかった」と供述していることが、捜査関係者への取材でわかった。

 府警は、救命に必要な処置を怠ったとして、6日に院長を業務上過失致死容疑で書類送検する。

 無痛分娩を巡り、医師が書類送検されるのは異例。院長は容疑を認めている。

 捜査関係者によると、女性は同府枚方市の長村千恵さん(当時31歳)。院長は1月10日、長村さんに局所麻酔を実施。長村さんが呼吸困難を訴えたのに、経過観察を怠って容体急変の兆候を見逃したうえ、急変後も人工呼吸を行わず、同20日、搬送先の病院で、低酸素脳症で死亡させた疑いが持たれている。

(2017年10月6日(金) 7:05配信 読売新聞



先日、耳鼻科クリニックで小児の心停止で、(胸骨圧迫のみで)人工呼吸をしなかったことが「過失あり」と認定された ケースを紹介 しましたが、医療機関内における救急対応でも、その中身や質が問われる時代になってきています。

いざという時は慌ててしまって、準備していたものが100%発揮できないというのは、人間としてありえることですが、それを押してでも対策を考えておかないといけないのかもしれません。

AHA蘇生ガイドライン2010で書かれていた点ですが、いざという時に対応できなかった理由の第一位は「パニックになった」(37.5%)でした。

そのため、次のように勧告しています。

「CPR訓練によってパニックの可能性に対処し、パニックの克服方法を考えるよう受講者に促すことは効果的である」 (クラスIIb LOE C)


救護義務と訴訟を考えたときに、まず問題とされるのは「体制」です。

つまり、きちんと訓練・準備されていたかどうか、です。

学校などでも、しばしば対応マニュアルがあったかどうかが問題とされるのはこの部分になります。

そして訓練をしていたかどうか?

先の耳鼻科クリニックの例に関して言えば、判決の中で医師はBLS訓練をしていなかったことも俎上に上がっていました。

そして仮に訓練がなされていたとしても、その中身が問われる時代になりつつあります。


この産科クリニックの例のようにパニックになってできないというのは、ある意味想定内のことです。

だったら、訓練の中でパニックに対応するようなトレーニングをしていたか、が問題となってもおかしくありません。


ここから、CPR訓練提供者であるインストラクター側の問題として考えていきますが、私たちは蘇生ガイドラインが勧告しているような「パニックの克服方法を考えるよう受講者に促す」ようなトレーニングを提供しているでしょうか?

ありきたりの技術練習に終わるのではなく、受講者が慌ててパニックに陥るようなシチューションを提示し、対応してもらう機会を作ることが重要だと言えます。

この点、AHA-BLSプロバイダーコースでは、2015年のコース改定で「パニックの克服方法を考えるよう受講者に促す」ための訓練とも言うべきものが導入されました。

それが、「ハイパフォーマンス・チームアクティビティ」と呼ばれる10分間のチーム蘇生を行う場面です。

受講者4〜6名程度で、どう行動するかが試されるこの場面、シナリオ提示の仕方によっては、効果的なパニックガード訓練にすることができます。


これに限らず、リアルな状況を設定して、そこに予想外の展開を仕込むことによって、パニックを疑似体験させて、その後の振り返り(リフレクション/デブリーフィング)によって「パニックの克服方法を考えるよう受講者に促す」ことができます。


これは、時間が許す限り、どんなCPR講習の中でも、取り入れたい内容ですね。




posted by BLS横浜 at 10:56 | 職業人のための救急法 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年08月21日

判例ー人工呼吸をしなかったことが過失に

少々古い話になりますが、2016年に出た心肺蘇生に関する判決についてクリップしておきます。

女児救命措置に過失 診療所に6100万円賠償命令


女児救命措置に過失 診療所に6100万円賠償命令
 仙台市泉区の診療所を受診後に死亡した宮城県内の小学5年の女児=当時(11)=の遺族が、診療所を運営する同区の医療法人に約6800万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、仙台地裁は診療所の過失を認め、約6100万円の支払いを命じた。判決は26日付。
 大嶋洋志裁判長は「診療所は、救急蘇生のガイドラインで義務付けられた人工呼吸をしなかった。適切に蘇生措置をしていれば助かった可能性が高い」と述べた。
 判決によると、女児は2011年8月、診療所で中耳炎の治療中に意識を失った。看護師は心臓マッサージはしたが、人工呼吸はしなかった。救急隊が人工呼吸を始めたが、女児は重い低酸素脳症を経て約3週間後に死亡した。医療法人の担当者は「弁護士に任せており、答えられない」と話した。

河北新報
2016年12月28日水曜日
http://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201612/20161228_13014.html




診療所での救命処置の中で人工呼吸を行わなかったことが、過失と判断されたという事案です。

この報道から考えたことを書き留めておきます。


皆さんは、この報道を目にして、どのように感じたでしょうか?


・人工呼吸はしなくてもいいと教わったけど?
・そこまで求めるのは酷だ
・こんな判決が出たら誰も手出しをしなくなってしまう


この報道が流れたのは2016年の年末。残念ながら、リアルタイムで目にしたわけではないのですが、当時、このような論調が多かったのではないかと想像します。

本件を考える上で、勘違いしてはいけない重要なポイントは次の2点です。

・傷病者は子ども
・診療中の出来事であり、医療従事者の対応であった


まずは、これが「子ども」の蘇生であったという点。これが世間の認識とは少し異なる判決となった要因です。昨今、「人工呼吸はしなくてもよい」という論調が多勢となっていますが、これは成人傷病者を前提とした市民啓蒙のための簡略化であり、医学的に人工呼吸が不要となったわけではありません。

そして次に、本件は医療機関内で免許を持った医療従事者に対する「業務上の過失認定」であるという点を正しく理解する必要があります。プロが行う仕事としての救命処置である、ということです。ですから、この判決が出たからと言って、通りすがりの立場で救護にあたる市民救助者が萎縮するような話ではありません。


この2点を、もう少し詳しく解説していきます。



1.子どもの蘇生法は大人とは違う

蘇生科学の世界では、一般的に子どもと大人では心停止になる要因が違うため、対応の優先順位が異なるとしています。

大人の心停止は心原性心停止が多く、心室細動に代表される心臓のトラブルによって、心臓が停まり、それとほぼ同時に意識消失ならびに呼吸が停まると考えられます。この場合、心肺が突然にほぼ同時に停まるため、倒れる直前までは普通に呼吸をしています。

そのため、血液中には酸素が十分に残っていますので、胸を押して血流を作り出すだけで、脳細胞や心筋細胞に酸素供給を続けることができます。

だからこそ、胸を押すことが優先され、倒れた直後であれば人工呼吸は必ずしも行わなくても良いと言われているわけです。



しかし、子どもの場合は、一般論として呼吸原性心停止が多く、呼吸のトラブルから、まず呼吸が停まり、その後、遅れて心臓が停まる、というケースが想定されます。

つまり、心臓が停まる原因は、呼吸停止により、血液中の酸素を使い切ったことによる酸素不足です。そんな状態で胸骨圧迫のみの蘇生をしたらどうでしょうか?

胸骨圧迫により、血液は巡りますが、血液中の酸素は使い切った状態ですので、心筋細胞と脳細胞に酸素を供給するというCPRの目的を達することはできません。

この場合、人工呼吸によって、大気中の21%の酸素(呼気にも17%の酸素が含まれます)を血液に溶け込ませるというステップが欠かせないというのは理解いただけると思います。


そのため、蘇生のガイドラインでは、子どもの蘇生に関しては、人工呼吸は重要で欠かせないものと位置づけています。感染防護等の準備ができ次第、ただちに人工呼吸を行うことを求めているのです。

さらには、可能であれば胸骨圧迫より、人工呼吸を先に開始することさえ提唱されています。


参考過去記事 → 「溺水の救命のポイントは人工呼吸



2.業務対応としての救命処置と、善意の救急蘇生は違う

子どもの蘇生では、人工呼吸が欠かせないという医学的な理由はご理解いただけたと思います。

人工呼吸は必須というと、体液・血液感染のリスクを負ってまでやらなくてはいけないのか、と疑問に思うかもしれませんが、このあたりは業務としての救命処置なのか、責任がない立場での偶発的な対応なのかが分かれ道です。

通りすがりでたまたま遭遇した子どもの急変に第三者的に関わるのであれば、胸骨圧迫だけでも119番通報するだけでも、自分の安全(感染の問題も含めて)を優先して、できる範囲のことを無理せず行えば十分です。

しかし、今回の事案は、診療所での診療中に起きています。

ですから、感染防護具が準備できずに人工呼吸ができなかった、という言い訳は成り立ちません。

そして、当事者は小児も扱う耳鼻科クリニックの医師と看護師であり、子どもの蘇生には人工呼吸が必要であるという判断ができる立場の人たちです。

ここが、人工呼吸をしなかったことが過失と判断されたポイントと思われます。

医療業務として、やるべきことをしなかった。

もしくは、救急対応ができてしかるべき診療所であるにも関わらず、人工呼吸のデバイスを準備していなかった、もしくは人工呼吸のトレーニングをしていなかったことが、システムの不備、注意義務違反と解釈されます。(参考まで、原告の訴えとしては静脈路確保とアドレナリン投与【二次救命処置】をするべきであったと主張してますが、それは却下されています。)

蘇生ガイドラインは5年ごとに改定されていますが、事案が発生した2011年当時の心肺蘇生法ガイドラインでも、そのひとつ前の2005年ガイドラインでも、子どもの心肺蘇生法では人工呼吸が必要であるという点はずっと変わらず言われている点です。


3.考察

昨今の心肺蘇生法に関する世の中の認識を見ていて感じるのは、市民向け、かつ心原性心停止前提の蘇生法の知識(胸骨圧迫+AEDこそがすべて、みたいな)が広がりすぎて、医療従事者をはじめたとした責任のある立場の人たちが心肺蘇生法について誤解しているのではないかという気がしてなりません。

今回の仙台の事案でも、被告側は、人工呼吸をしなかった正当性の理由のひとつとして「救急医療の専門家が行うものではない段階におけるCPRにあっては,胸骨圧迫のみによる蘇生が推奨された時期もある」という理由を挙げています。

いわゆるHand Only CPRが世界に公表されたのは2008年で、当時は、人工呼吸の省略が許されるのは、「病院外で成人が目の前で卒倒した場合」に限定されており、さらに、子どもや溺水、薬物過量などが疑われるケース(つまり呼吸原性心停止疑い)には適応されず、人工呼吸も行うべきである点が強く強調されていました。

つまり、当時から医療従事者が業務中に行う蘇生に対してはHands only CPRは適応外であり、CPRといったら、人工呼吸+胸骨圧迫である点は、2017年の今に至るまで変わっていません。

医療従事者であっても、人工呼吸準備に時間をかけるなら、まずは胸骨圧迫を始めるというのは正しい判断ですが、その後、スタッフが集まってきて準備ができ次第、人工呼吸を開始するのは、大人であっても子どもあっても同じです。決して人工呼吸をしなくていいと言っているわけではないのです。

心肺蘇生法は、社会啓蒙としての蘇生と、業務としての蘇生では別の流れがあるのですが、この点を医療従事者が把握していないのは残念なことです。市民向けの情報番組を鵜呑みにするのではなく、きちんと医学的に学んでほしいところです。

口対口人工呼吸をしろと言っているわけではありません。

医療機関では然るべき人工呼吸のバリアデバイスを準備して、その使用方法は訓練しておく、というシステムの問題と捉える必要があります。

人工呼吸を試みたがうまくできなかったということが問われているのではなく、準備対策をしていなかったことが問題になっている点には注目すべきです。



この判例について、「厳しい」と感じる医療者の方もいるかもしれません。免許取得過程で小児の救命法を教わっていないというのも事実かもしれません。

しかし、市民の目からみたら、病院勤務の医療従事者であれば、然るべき対応ができると期待しているのは紛れもない事実です。

それに対して、自分の時代は教わっていないからできなくても仕方ない、と遺族に対して面と向かって言えるでしょうか?

然るべき対応とはなにかの判断基準が、判決でも取り上げられているように日本蘇生協議会のJRC蘇生ガイドラインです。今回は、そこに書かれているエビデンスレベルや推奨度も検討され、クリニックにおけるアドレナリン投与までは求めないものの、人工呼吸は行うべきであったと司法は判断しました。



このニュースを聞いて、少しでも心を揺さぶられるのを感じたのであれば、市民啓蒙のための簡略化された救命法ではなく、医療従事者向けの、そして小児BLSを学ぶことをおすすめします。

日本蘇生協議会のJRC蘇生ガイドラインはPDFで全文公開されています。

ぜひ、第1章 一次救命処置(BLS)と 第3章 小児の蘇生(PLS)だけでも目を通して見てください。

https://goo.gl/pjJrUa

そして、ご自身が勤務する施設に置いてある人工呼吸のためのデバイスを確認してください。

どこになにが置いてありますか?

そして、それを使うことはできますか?

もし、備品としてないのであれば、AEDと合わせて換気器具を配備することと、その訓練を提案してはどうでしょうか? AEDのように高価なものではありません。ポケットマスクなら3,000円程度、バッグバルブマスクでも、ディスポーザブルのものが1万円以下で買えます。


裁判官の判決にあった「適切に蘇生措置をしていれば助かった可能性が高い」という判断や、蘇生ガイドラインが義務であるという表現に引っかかりを感じる部分もあります。しかし、事例から私たちは未来をより良くする改善に目を向けたいと思います。




posted by BLS横浜 at 14:12 | 職業人のための救急法 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年03月09日

幼稚園の救命講習 親向けと教職員向けの違い

先日、横浜市内の幼稚園で親御さん向けに「子どもと赤ちゃんの救急蘇生法」講習を開催させていただきましたが、同園では去年8月に教職員向けの「小児BLS&エピペン研修」を開催しました。

BLS横浜オリジナルの子どもCPRとファーストエイドのアルゴリズム


小児マネキンを使って、こども(1歳〜思春期まで)のCPRを教えるという点では同じですが、先生向けと親御さん向けで同じ展開をしたわけではありません。

それは幼稚園の先生と親御さんでは、立場がまったく違うからです。

例えば人工呼吸の方法が違います。

親御さん向けにはマウスtoマウスの人工呼吸を指導しますが、幼稚園の先生向けにはポケットマスクを使った人工呼吸で練習してもらいました。

唾液などへの接触によって病気が感染するリスクは高くはないとは言われていますが、子どもとは言え他人に口をつける動作を抵抗なくできる人はいません。

子どもの蘇生法では人工呼吸が特に大事と言われていますから、着実に人工呼吸をしてほしいと考えたら、フェイスシールド系のものではなく、やはりポケットマスクです。(園には2つ配備されています)

また幼稚園の教職員は、業務中の救急対応を想定していますから、一人法CPRだけではなく、胸骨圧迫の交代の仕方も含めて、二人法CPRの連携についても強調して練習してもらいました。

また練習をする上での動機づけも、教職員は「救護義務がある」という点で親御さんとは決定的に違います。

いざとなったら救命処置を行わなければならないという責務を負っているのが学校教職員です。

ですから、職業意識やプロフェッショナリズムに根ざした動機づけや指導が必要です。中身も形だけの体験学習のようなものではなく、「しっかりと身につける」ためにはある程度の練習量と、それに見合ったマネキン配置、スタッフ配置、そして時間が必要となります。

命に関わることをインスタントに終わらせてはいけない、そう考えています。


同じ幼稚園で、続けて2つの救命講習を企画させていただきましたが、そんな違いについて再認識した次第です。



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2016年08月02日

保育士が書いた保育安全ガイド「保育救命」

今日紹介するのは、「保育士が書いた応急手当の本」です。



珍しいかもしれません。

ふつう、救命法とか応急手当の解説書というと、医学的な内容なことから医師などの医療従事者が書くことが多い印象です。そのため、どうしても医療者目線の内容、どれも似通った切り口で書かれがち。

応急手当や救命への意識や目線が、医療従事者と一般の方では相当違いますので、市民向け本としてはすこしピントがずれているということもあります。

その点、保育士が保育士目線で書いた保育園での安全を考えた本ということで、現場の方にはドンピシャな内容なのではないでしょうか?



本屋で見かけたらぜひ手にとってほしいのですが、保育救命はただの応急手当のマニュアル本ではありません。応急手当という限局された視点ではなく、もっと広い範囲で上から見下ろすような、保育の現場での安全を俯瞰したガイドブックです。


 第1章 ハザードマップを作ろう
 第2章 保育現場で重大事故になりやすいトップ3
 第3章 保育現場で起こりやすいケガ・症状
 第4章 保護者対応と研修の大切さ


特に大切なのが第1章です。

筆者の遠藤登さんは、事故事例や、危ない!と思った「ひやりはっと」を書き留めて、職員で共有することを提唱しています。

室内で、園庭で、そしてお散歩の時など、どんなキケンがありそうかを地図に書き入れて、ハザードマップを作ることで、危険性を可視化していくのです。

その地図を職員に目立つところに貼っておいて、日々、情報を更新し、朝のミーティングなどで積極的に情報共有していくことが、事故を未然に防ぐ対策につながり、個々の意識づけになります。

応急手当というのは、起こってしまった後の対応であり、いわば最終手段であるという点を忘れてはいけません。

応急処置の勉強にのめり込んでしまうと、ケガした後どうしようという部分に視点が行きがちですが、一歩目線を引いいて考えれば、事故が起きてからの対応を学ぶよりも、事故を起こさないことを学ぶのが先、ということは熱心な人ほど意外な盲点になりがちです。

ちょっとした工夫で防げる事故も多いわけですから、まず取り組むべきは園全体の意識づけと共有で「防ぐ」取り組みなのです。

小児の救命の連鎖の最初の輪は、昔から「予防」です。

そんなことを思い出させてくれて、具体的に何をしたらいいかを提案してくれているという点でも、やはり現場の方が書かれた本なんだなと強く感じます。


まえがきで書かれていますが、筆者の遠藤登さんは、ご自身が保育園の園長をしていたときに、午睡中に子どもの心停止事案に直面したことがきっかけで、保育の救命救急や安全管理に関わる仕事をするようになったそうです。

その後、いろんなことと向き合い、考え、活動してきた中で辿り着いた、すべてのキケンを排除するのではなく、リスクと向き合いつつ学びを最大にしていく、という遠藤さんの理念が詰まったのがこの1冊です。

ただの応急手当のマニュアル本ではないところの所以です。

その他、特筆すべき点をあげるとすると、

・保育の現場では、「注意義務」があるという視点
・記録の大切さ
・手袋の使用や下痢・嘔吐の処理などの感染対策
・保護者対応
・ワークショップの開き方

などが、他にはない視点で非常に勉強になると思います。

保育士はもちろん、幼稚園や小学校の教職員にとっても参考になる情報源といえるでしょう。

保育園・学校現場の安全は、養護教諭や保育所ナースの個人的な力量に左右されるようなものではなく、全職員を含めた施設としてのシステムの問題です。誰か1人が意識が高いだけでは有効なパフォーマンスは発揮できません。

職員全体で共通認識を持つためにも、「保育救命」を施設の休憩所にいつでも読めるように置いておくというのもいいかもしれません。




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2016年07月30日

水辺の事故、人工呼吸の準備はOKですか?

梅雨明けもして、夏に突入した今日この頃。夏のレジャーの話題とともに水難事故のニュースも目立つようになってきましたね。

そこで気をつけたいのが、心肺蘇生法トレーニングの内容と準備についてです。


人工呼吸、できますか?


昨今、心肺蘇生法では人工呼吸は不要になったという、やや不正確な情報が広まっていますが、水辺の事故を想定した心肺蘇生法としては、人工呼吸は重要です。

直感的にイメージしてもわかると思いますが、溺れて心停止になったら、呼吸ができないことで起きる酸素不足が原因となっている可能性が高いです。

血液中に溶け込んだ「酸素」を使いきってしまったために起きた心停止ですから、胸を押して血流を生み出すだけでは不十分です。

血液中に酸素を供給するための「呼吸」を、人工的にしてやる必要があるのです。


善意での救命では胸骨圧迫だけでもOK


とはいえ、知らない人に口をつけて、人工呼吸をするのは抵抗あると思います。

ですから、通りすがりの立場であれば、胸を押すだけの蘇生法でも、何もしないよりは遥かにマシということは間違いありません。

なんの責任もない立場であれば、できるかぎりのことをすれば、それで十分です。


責任ある立場の人はきちんと人工呼吸の準備と練習を!


しかし、あえて水辺での緊急事態に備えるのであれば、人工呼吸の訓練と、実行を容易にするための準備をしておきたいところです。

例えば、幼稚園や小学校のプール授業のまえの心肺蘇生法講習で人工呼吸練習を省略するのはあり得ません。

さらに言えば、人工呼吸の技術を身につけるだけではなく、「実際にできる」状態に高めるための準備も必要です。


それはずばり感染防護具の準備です。


小児や水難事故では必須の人工呼吸感染防護具ポケットマスク


職業人が人工呼吸をする以上、感染防具を使うのは必須です。それがないからできない、という状況は通りすがりの素人ならいざしらず、プールの授業の安全管理を行う立場であれば許されないことでしょう。

AEDと一緒に人工呼吸の感染防護具が入っているか、確認しておく必要があります。

できれば人工呼吸は、より安全で、より使いやすいフェイスマスク(通称ポケットマスク)の準備が望まれます。フェイスシールでは、どうしても相手の口の周囲に自分の唇が触れる感触がありますので、気持ち的な抵抗が強いからです。

人工呼吸を本気で行うことを考えたら、フェイスマスクの準備をし、使用が望ましいでしょう。


このように救命法は講習を受ければいいというものではなく、安全管理システムの一部として講習の受講があり、さらにはAEDや感染防具の準備があり、さらには防災訓練のような実地でのシミュレーションが必要なのです。



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2016年06月01日

「救急対応システム」とは

アメリカ心臓協会の講習プログラムでは、「救急対応システムに通報する」とか、直訳的に「救急対応システムを発動する/起動する」という表現が出てきます。

一般には119番通報のことなのですが、なぜ、このようなまどろっこしい言い回しをするのかというと、第一選択の救急対応システムが必ずしも119番(消防)とは限らないからです。

例えば、病院内での急変では119番通報はしないですよね?

同じように、大きな工場や施設では、消防とは別に独自に救急対応システムを持っている場合があります。

船舶の中や、消防署のない離島でも独自のシステムがあるのは想像できると思います。

特にそういった決まりがなければ日本全国共通の119番でいいのですが、地域や場所に合わせた適切な緊急通報をしてほしい、ということで、AHAテキストでは、あえて「救急対応システム」という表現をしています。







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2015年05月06日

救命講習後、職場に戻ったらすぐチェック!

保育園や幼稚園、介護職員向けの心肺蘇生法講習をした際に、講習の最後に配っているメッセージです。


救命講習受講後に職場でチェックしたいポイント


短い救命講習の中ではCPRという技術を身に付けるのが精一杯。

しかし、実際の救急事案では、CPR着手に辿り着くまでのノンテクニカルな部分が重要です。

学んだ「技術」を使える「パフォーマンス」に昇華するためのヒント。

救命を個人スキルから、施設全体のシステムの問題として考えをシフトしないと救命の連鎖はつながりません。

インストラクターの皆さんも、よければ参考にしてください。

本当は受講者全員で事例を共有してディスカッションができるといいのですが、なかなか時間が取れないのが現状。

よろしければ、このようなメッセージを最後に配ることをおすすめします。

この文面をまるごと使って頂いても構いませんし、アレンジしてもらっても構いません。ご自由にお使いください。

A4用紙に印刷できるPDFデータも公開します。

「職場のシステムとして考える救命処置」 PDF 312KB】




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2015年01月16日

職場での救命をシステムとして考える

職場での救命:119番通報AED、チェックポイント


講習会で学べるのは、技術(テクニカル・スキル)です。
テクニカル・スキルだけでは救命の連鎖をつなげることはできません。

効果的な救命を行うには、個人の技術に加えて、救急対応を「職場のシステムの問題」として考え、組織的に備えておくことが重要です。

職員全員が同じ技術を身につけ、共通認識を持っていることが第一歩。

そして、職員の役割分担・連携を想定しておくこと、さらに、地域の救急サービス(消防等)と上手に連携する準備をしておくこと。

救命の連鎖を思い出してください。

多くの場合、もっとも効果のある救命処置は、人を集めること、そして119番通報することです。

無駄のない迅速な119番通報、そして施設に到着した救急車から救急隊員が最短ルートで現場に入れる工夫を、ぜひシミュレーションしてみてください。

防災訓練と同じです。

イメージをして、実際に動いてみること。

例えば、いま目の前で、職場の隣の席の人が、喉に食べ物をつまらせたら、どう行動しますか?
誰が救命処置を行いますか? 取れなければ、誰が度のタイミングで119番通報しますか?

職場の中で、窒息や心停止対応シミュレーション訓練を行ってみることを提案します。

うまく行った点、うまく行かなかった点。

なぜ?

その振り返りから、スタッフの連携が生まれ、システムの改善点が見えてくるはずです。





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2014年04月26日

保育園ナースの専門性ってなに?

BLS横浜のサテライト、BLSくまもとのオリジナル企画。

保育園ナースの専門性とは? 小児BLSとアナフィラキシー対応(エピペン注射)できますか?
保育所ナースのためのワークショップ「保育園看護師の専門性とは?」 by BLSくまもと


子どもたちの命を預かる専門家として 、
『保育園 看護師』の専門性について再確認してみませんか。

保育園ナース同士の意見交換会です。

【ワークショップのテーマ】
 ・アレルギー・アナフィラキシーへの対応って?
 ・小児一次救命処置 PBLS (Pediatric Basic Life Support)って何?
 ・大人との違いは?
 ・こんな想定はしていますか?
 ・救急箱の中には何がある? 他









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2013年04月01日

BLSやACLS-標準化コースの意義についての考察

標準化コースはあくまでも「標準化」コースなのです。

細かいところは抜きにして幹だけを教えるもの。

そうしなければ教えることが多岐にわたり、受講者一人ひとりの違う環境にも対応させるのは事実上不可能。だから標準化して理想的な環境下での原則を教えるのです。

ですから、それだけでは現場では使えないのは、ある意味当然の話。

「ACLS取ってきたのに実際の急変ではなにも出来なかった」

それは、ACLSプロバイダーコースが標準化コースだということを理解していなかった証拠です。

標準化コースでは、幹だけで枝を教えることはできない。しかし現場でのパフォーマンスには枝も必要なのです。

その枝はどこで学べるかー? それは現場でしかあり得ません。実際の職場環境の中でどうパフォーマンスを発揮するかは現場でのシミュレーション訓練によるものなのです。







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2012年12月26日

問われる救護責任と義務

12月25日付けで「プール事故で元園長ら書類送検へ」というNHK報道がありました。

定員を越えた園児をプールで遊ばせていて、3歳の子が溺れて死亡した事件。
安全管理を怠ったとして当時の園長と担任教諭が業務上過失致死罪で書類送検されることになりました。

この報道を見ていて気になったのは、次の部分。


「当時の園長が救急車を呼ばずに抱きかかえて近くの病院へ連れて行ったことも、救命措置の遅れにつながったおそれがあるということです。」


事故が発生した要因だけではなく、事故後の対応についても問われているという点は注目に値します。報道からは現場で蘇生行為が行われたのかどうかはわかりませんが、少なくとも119番しなかったという点が問題視されています。

これまでは、最大限努力しました、という事で不問になることが多かったこの手の事件ですが、その中身が問われるようになってきているということです。

かつてあった報道でも不可解なものがよくありました。喉にモノをつまらせた園児を保育士が掃除機で解除を試みたが助けられなかったとか。その事件で保育士の責任を問うような報道論調はありませんでした。

しかし、本来は保育士や幼稚園教諭、学校教諭は預っている子どもたちの健康維持に責任ある立場。

例えば心肺蘇生法にしても、巷で一般的な善意によるCPRとはまったく別次元にいるわけで、その質が求められて然るべき立場にいます。保育士で心肺蘇生ができません、というのはあり得ない事態です。

今回の報道ではそこまでは問われていないようですが、少なくとも救急車を呼ぶか、自分で病院搬送するかという判断に関しては、問われています。

現実問題、難しい部分でもありますが、少なくとも「責任ある立場」にある人たちへの警鐘としてこの記事をクリップしておきます。




プール事故で元園長ら書類送検へ
12月25日 5時52分(NHKニュースウェブより

去年7月、神奈川県大和市の私立の幼稚園のプールで、当時3歳の男の子が溺れて死亡した事故で、警察は、幼稚園が定めた定員の2倍の園児を1度にプールに入れるなど、安全管理を怠ったことが事故につながった疑いが強まったとして、近く、当時の園長と担任の教諭を業務上過失致死の疑いで書類送検する方針を固めました。

去年7月、大和市大和東の私立の西山学園大和幼稚園で、プールで遊んでいた大和市鶴間の伊禮貴弘くん(当時3)が、溺れて死亡しました。プールは直径が4.75メートルの円形で、水深は20〜30センチほどしかなく、警察が関係者から事情を聞くなどして調べていました。
その結果、幼稚園が定めたプールの定員の2倍に当たる2クラスの園児およそ30人を遊ばせていたため、当時の担任の教諭が溺れた男の子に気付くのが遅れた疑いが強いということです。また、当時の園長が救急車を呼ばずに抱きかかえて近くの病院に連れて行ったことも、救命措置の遅れにつながったおそれがあるということです。
これまでの調べに対して、2人はいずれも事実関係を認めているということです。このため、警察は、安全管理を怠ったことが事故につながった疑いが強まったとして、近く2人を、業務上過失致死の疑いで書類送検する方針を固めました。







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2011年04月23日

保育士が医療者向けBLS講習を受ける意義

BLS−AED.net横浜は、心肺蘇生法や救急法の普及推進に興味を持つ個人の集合体です。インストラクターも本職としてさまざまな仕事をしている人たちが集まっています。

医師・看護師だけではありません。

今日は、保育士さんで、AHA-BLSインストラクターとして活躍している仲間のブログ記事を紹介します。


『保育士がお医者さんや看護師さんと
 同じ土俵で学ぶ気概をもったら生まれ変われること』


 http://ameblo.jp/lsfachild/entry-10868681967.html


保育するってことは子どもの明日をつくること


保育士の視点で心肺蘇生法講習を考えて、見えてきたこと。

技術習得だけがBLS講習の目的ではない、という視点、斬新でした。


皆さん、ぜひ目を通してみてください。


最近方針が示されたエピペン(アドレナリン自己注射器)の話題や、保育業界の安全対策など、過去ログにも、興味深い記事がめじろ押し!

必見です。


posted by BLS横浜 at 22:22 | 職業人のための救急法 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年11月06日

キャビンアテンダントと心肺蘇生AED講習

アメリカと違い、日本では心肺蘇生(CPR)講習の受講義務がある職種はきわめて限られますが、その中でも古くから知られていたのが、キャビンアテンダント、いわゆるスチュワーデスさんです。

キャビンアテンダント、略してCA、フライトアテンダントとも呼ばれることもある航空機の客室乗務員。

女性にとって人気の職業であるキャビンアテンダントには、航空会社へ就職情報をまとめた専門雑誌もあったりします。

そうしたキャビンアテンダント志望者専門雑誌の求人情報などを見ていると気づくのが、CAの必須スキル/資格として心肺蘇生法が挙げられている点です。

中でも、日本赤十字社が定める救急法救急員資格の取得を推奨するような記述が目立ちます。

日本赤十字社の救急法救急員は、ある意味、日本の救急法教育の中では、その守備範囲の広さと深さではトップクラスの講習であると思います。

資格取得には24時間(通常3日)の受講と、修了検定(実技試験と筆記試験)に合格する必要があります。

そういった意味では、日本最高峰なのですが、残念ながら、日赤救急法救急員資格は日本国内限定であることはあまり知られていません。

赤十字というからには、世界中で通用しそうな気がしますが、基本的には各国赤十字は横のつながりはありません。また全体を統括するような仕組みもありませんので、日本赤十字は日本独自の救急法を教え、日本国内で有効の修了証を発行しているに過ぎません。

キャビンアテンダントでも、国内線専門であればそれでもいいのかもしれませんが、国際線の客室乗務員になる場合、救急法に関しても、世界水準のものが望ましいのは言うまでもありません。

日本では誰でもAEDを使うことができますが、そんな自由な国は世界でも珍しく、アメリカも含め、公式なAED講習修了証を持った人以外はAEDを使ってはいけないという国の方が多いかもしれません。

そう考えると、日本国内で取得できて、国際的に通用するCPRとAEDに関するサティフィケイト(certificate)というのは、非常に限られてきます。

代表的な資格は、次の二つでしょう。

 ・American Heart Association/ Heatsaver AED Course
 
 ・Medic First Aid/ Care plus CPR AED


どちらも、航空会社の客室乗務員向け研修プログラムとして採用されて来た実績をもつ本格的な蘇生教育コースです。

特に、BLS−AED.net横浜でも開催している、アメリカン・ハートアソシエーションのハートセイバーAEDコースは、日本で初めて医師以外にAED使用が認められたときに日本航空(JAL)が採用したコースとしても知られています。(当時、日本ではAED使用方を教えられる人材がいなかったため、JALではアメリカに職員看護師を派遣してアメリカ心臓協会AHAのBLSインストラクター資格を取らせて、職員研修を行っていました)

教育学的な成人学習手法に基づいて作られた教育プログラムもさることながら、やはり蘇生科学の国際的権威であるアメリカン・ハートアソシエーション(アメリカ心臓協会)の英文の公認修了カードというのがフライトアテンダントにとっては最大の武器となることでしょう。

AHAの修了カードは英文表記のため、一般企業などでは就職などのために提示してもなかなか内容が伝わらないこともあったりしますが、その点、外資系企業や世界を相手にする航空会社では英文修了カードは強みでしょう。


今回、こんなことを書いてみたのは、BLS−AED.net横浜として公募でハートセイバーAEDコースを開催してみると、キャビンアテンダント客室乗務員を目指すという学生さんの受講が多いことに気づいたからです。

やはりこうした日本ではまだ浸透していないグローバルスタンダードな視点に目を向けるのは、視野が世界に向いた人たちなのでしょう。

ハートセイバーAEDコースは、日本では開催されることがあまり多くありません。しかし需要はそこそこあるようです。そうした隠れた要望に応えるため、BLS−AED.net横浜は東京23区内や神奈川県内でハートセイバーAEDコースを開催していきたいと思います。


とりあえず、次回開催は、12月12日(土)、東京都文京区の茗荷谷駅(池袋から2駅)での開催予定です。




posted by BLS横浜 at 03:07 | 職業人のための救急法 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする